あらすじ
(文=オカルトサークル『Grotesques』代表・金泉柚麒、同副代表・碧南雀羅)
「大師様」と聞けば、大半の人は「弘法大師」を思い浮かべるであろう。真言宗の開祖であり、日本屈指の名僧と名高い人物。彼が不可思議な力で人々を救ったとする伝説は、日本各地に残されている。
しかし中には、聖人らしからぬ一面が垣間見える話もある。代表的なものが、新潟県で語られる「跡隠しの雪」だ。ある時小さな村を訪れた「大師様」は、足の不自由な老婆にもてなされる。彼女は家に食べ物が無いため、近くの畑から野菜を盗んでくる。雪が積もった地面には、引き摺ったような足跡がポツリ、ポツリ。「大師様」は老婆が捕まらないよう、雪を降らせて足跡を消してしまった。
親切に報いる行動ではあるが、手放しには褒められない。もっとも、これはまだまだマシな方。地域によっては集落の水源を潰しただとか、作物を全て台無しにしただとか、物騒極まりない「大師様」が出没する。
科学全盛の現代、「大師様」の噂はとんと聞かなくなってしまった。けれども仮にーー仮に妖しい「ダイシ様」と出会ってしまったなら、十分に用心されたし。
(怪異専門誌『桃花異 vol.002』より抜粋)