あらすじ
昭和、平成のロングセラーとなったポプラ社の「少年探偵 江戸川乱歩全集」全四十六巻を愛読した方は多いと思う。
ミステリーの巨匠、江戸川乱歩が児童向けに執筆した「少年探偵団」シリーズを二十六巻にまとめ、二十七巻以降は乱歩の通俗長編を児童向けに改作した作品が網羅されている。
「江戸川乱歩全集」と銘打っているものの、二十七巻以降は「江戸川乱歩」の名義ではあるものの、乱歩自身が自分の作品を児童向けに改作したのではない。
別の作家の筆によるものである。
大部分を戦後、乱歩の弟子のような立場にあったミステリー作家、氷川瓏が改作を担当している。
ただし第二十七巻『黄金仮面』、第三十巻『大暗室』、第四十四巻『人間豹』は別である。
『黄金仮面』は戦後、ミステリー作家、児童作家だった武田武彦が、同名の乱歩作品を児童向けに改作し、雑誌連載した作品を単行本化。
『大暗室』『人間豹』は同じく武田武彦が、同名の乱歩作品を児童向けに改作し、雑誌連載した作品を、ポプラ社が再編集して単行本化したものである。
ところが『大暗室』『人間豹』は武田武彦ではなく、ほかの作品同様、氷川瓏が改作したと説明している研究書があり、それを無批判に孫引きして結果的に武田武彦を貶めたブログも多数ある。中川右介『江戸川乱歩と横溝正史』では、確かに武田武彦の雑誌連載はあったが、乱歩が評価せず、新たに氷川瓏が児童向けに改作したとしている。
実際には『大暗室』『人間豹』は、武田武彦の改作を再編集したものである以上、氷川瓏の改作とは云えない。
このエッセーでは、ポプラ社「少年探偵 江戸川乱歩全集」第四十四巻『人間豹』が武田武彦の児童向け改作の再編集であり、氷川瓏の作品とは云えないことを明らかにし、評論家や公共機関によって、名前を消された武田武彦の業績を再評価し、併せて一部分ではあるものの、現在では幻の作品である武田武彦改作の『人間豹』を実に七十二年ぶりに復活させるものである。
挿絵はみちのくの画家、作家、詩人、エッセイスト、書家として絶大な人気と支持を誇る澁谷沓さん。