あらすじ
時は江戸。巷を焼き尽くす業火の中、悪虐非道の限りを尽くした男がいた。
その名を世一(よいち)。
仲間を裏切り、財宝を独り占めにした彼は、生涯でたった一度だけ、気まぐれな善行を為す。
――燃え盛る炎の中から、一匹の美しい白い蜘蛛を救ったのだ。
そして、その代償として命を落とした。
当然、地獄に堕ちるものと覚悟していた世一。
しかし、彼が次に目覚めたのは、炎の中ではなく、一人の健気(けなげ)で純粋な「姫」が待つ、静かな『裁きの間』だった。
なぜ、極悪人の自分がここにいるのか。
なぜ、高貴な姫は自分を「世一様」と呼び、ひたすらに尽くすのか。
そして、なぜ彼女は、か細い声でこう願うのか。
「世一様なら……この息の詰まるような世界を、壊してくれると信じていました」
悪鬼と呼ばれた男と、彼に全てを捧げる神の少女。
一本の煙草を礼として、男が引き受けたのは、神々への反逆と、世界の「破壊」。
「月が綺麗ですね」
――物語の始まりと終わりに響くその言葉に隠された、本当の意味とは?
これは、絶望から始まる、破壊と再生、そして悠久の時を超える愛の物語。