あらすじ
あの夏の日。
蝉の声が降り注ぐ空き地で、僕たち三人は他愛もない時間を重ねていた。
ぬるいラムネ、小石を積むナギサ、寝転ぶカイの冗談――
そこは誰にも見つからない、僕たちだけの場所だった。
中学卒業後、カイは都市部の育成校へ、ナギサと僕は近隣の基幹校へ進んだ。
それぞれの場所で新しい日々が始まっても、しばらくは連絡を取り合っていた。
けれど、あるときからカイの返信はぴたりと止まった。
気になって彼の家を訪ねると、まるで最初から誰も住んでいなかったかのような静けさがあった。
育成校でも「すでに転校しました」とだけ告げられた。
一方、ナギサは入学して間もなく「入院」。
そして数週間後、「退院」して戻ってきた彼女とは――
なぜかうまく目を合わせられなくなっていた。
あんなに近かったのに。
でも、人との距離なんて、ふとしたきっかけで変わってしまうものなのかもしれない。
そう、自分に言い聞かせた。
そんなある夜、カイから突然、携帯に一通のメッセージが届く。
「イマ あい」
意味も理由もわからなかった。
ただ、それが“あの空き地”を指していると、なぜか確信していた。
そして、僕はそこで見つけた。
地面に倒れ、すでに息絶えていたカイの姿を。
やせ細った体。
手に握られた奇妙な文様の紙片。
首に、焼き印のように刻まれた同じ文様。
信じていた日常は、静かに壊れていた。
けれど壊れたのは、ただの思い出だけじゃなかった。
これから何かが動き出す――
そんな気配が、あの夜の空き地には確かにあった。
そして今でも僕は、問いかけ続けている。
あの文様は、なにを意味していたのか。
カイは、なにを伝えようとしていたのか。
知らなければよかった。
そう思うたびに、記憶の中のあの夏が、また音を立てて揺れる。