あらすじ
「……お前との婚約を破棄する」
そう言い放った王太子の顔に、微かな優越感が浮かんでいるのを、私は見逃さなかった。
この日が来ることは、うすうす察していた。婚約者であるアルベルト王太子が、近頃「聖女」ともてはやされる平民出身の少女、マリアと親しくしていたのは、王都中の噂だったからだ。
「……かしこまりました。王太子殿下のご意思、しかと承りました」
私は一礼し、静かに頭を下げる。感情を殺すことは、貴族令嬢として叩き込まれた礼儀だ。涙も、怒りも、悲しみも、見せるつもりはなかった。
それが、わたくし――クラリス・フォン・エルノアの誇り。
「ふ、ふん……素直で助かるよ。君にはもったいないくらいの婚約だったのだ、もともと」
そんな勝ち誇ったような言葉が背後から投げつけられても、私はもう振り返らなかった。