あらすじ

この世界に“神”などいない。
いたはずのそれらは、すでに全員、殺された。
首は刎ねられ、翼は引きちぎられ、聖書は便器の紙より価値を落とした。

だが、世界は終わらなかった。
誰かが残ったからだ。
名もなき“人間”が、這ってでも生きていたからだ。

 

――地図が燃えた。

俺が持っていた、世界の設計図が。
古代語で書かれた断片地図、魔族の血でなぞった境界線、喰らった街の標本写真、
十年かけて作った“地獄の航路”が、火薬と硫黄と神の遺骸で――燃えた。

 

その炎の中で、俺は笑った。
馬鹿みてぇな話だが、笑うしかなかった。
焼ける地図の向こうにいた化け物が、俺の腕を片方ごと持っていったからだ。
血と一緒に、いろんなものが流れていった。希望とか、未来とか、あと保険証。

 

「……問題ない」

俺は呟いた。誰にも聞こえない声で。
聞こえたら、そいつは“敵”だ。
この世界では、誰の耳にも入らない声だけが“本音”になる。

 

俺の名はヨハネス・グラウ。
職業は案内人。
死人と街の境界を歩き、廃都の地図を引き、
狂った神を撃ち殺すのが本業だ。

 

おかしな話だと思うだろう。
“案内人”が、銃を持ち、神を殺す?
違う。そっちがおかしいんだ。

 

かつての人間たちは、神を造り、崇め、そして捨てた。
その残骸が、今も街を喰っている。
信仰のカスが、意志を持って歩き回ってる。

俺はそいつらに道を聞かれる。

「お前はどこへ行く?」
「この先に何がある?」
「なぜ俺たちは滅びた?」

 

いいか、神の質問には答えちゃダメだ。
あいつらは“祈り”で動いてる。
お前が一言でも答えたら、そいつは“再起動”して、また人間を喰い始める。

 

だから俺は、代わりに地図を描く。
神の死体をまたいで、赤い線を引く。
“ここは通るな”――“この街はすでに死んでいる”――
“この女神像は目を合わせるな。食われる”

 

これが俺の仕事。
地図という名の“警告”を、世界にばら撒くこと。
戦いながら。逃げながら。喚きながら。

 

だが今夜、俺の地図は燃えた。
世界が、もう一度“迷路”に戻った。
それはつまり――

 

「――旅の再開だ」

 

俺は地面に落ちた義手を拾い、ライターで火をつけた。
燃える地図の代わりに、一本の線を空に描く。
炎の道。煙の航路。血のしるべ。

地図がなくても案内はできる。
なぜなら俺は――

 

「地獄の最深部まで歩いた、最後の人間だからな」

 

さあ歩け。地図を燃やして、世界を描き直せ。
ここが始まりだ。火をつけろ。
化け物が待ってる。
死者が呼んでいる。
神を殺す時間だ。

 

ヨハネス・グラウ。職業、案内人。
次に導くのは――この地獄の、出口だ。

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アルファポリス
アルファポリス2025/07/04
  • 現在の作品世界案内人は地獄の地図を広げる