あらすじ
重度の吃音に悩み、劣等感を抱える高校二年生の相葉海斗。彼は夏休みを過ごすため、母の故郷である離島「汐凪島」へ帰省する。そこで再会したのは、先天性の心臓病を抱える儚げな従妹・潮見凪。そして、本土から来た快活な転校生・日高ユイとも出会う。
吃音から解放される凪との静かな時間、劣等感を忘れさせてくれるユイとの眩しい交流。海斗は祖父の形見である古いフィルムカメラを手に、きらめく夏の風景と二人の少女の姿を記録し始める。弾ける「初恋サイダー」の泡のように、淡く切ない想いが芽生えかけた夏だった。
しかし、美しい自然とは裏腹に、島には古くからの因習が色濃く残っていた。「凪ぎ巫女」と呼ばれる特別な役割を担う凪の家系、厄災除けの禁忌の儀式、そして島民たちの凪に対する異様な視線。凪の病弱さ、孤独、運命への諦めと反発が、海斗への純粋な想いを歪んだ独占欲へと変質させていく。一方、ユイは島の異質さと、海斗と凪の共依存的な関係に気づき、正義感と無力感の間で激しく葛藤する。
やがて、島の不漁や凪の病状悪化を理由に、島の長老・シズを中心とした島民たちは、凪を生贄とする古の儀式を強行しようと動き出す。外部への助けも届かず、島の中で孤立していく海斗たち。
夏休みの終わり、儀式が執り行われる運命の夜。狂気に満ちた島民たちを前に、凪を守りたいという歪んだ庇護欲に突き動かされた海斗は、取り返しのつかない自らの選択をする。それは、凪と共に「共犯」という名の逃れられない檻へ足を踏み入れる決断だった。
煤けたフィルムは罪を写し、甘かったサイダーは二度と戻らない純粋さの苦い後味を残す。これは、純粋さが狂気に変貌し、初恋が破滅へと向かう、ある夏の忘れられない記録。閉鎖された島で、少年と少女が選び取った、切なくも残酷な運命の物語。