あらすじ
世界に生きるすべての者がいただく、魔力の源となる物質――「核石《かくいし》」はひとによって大きさも硬さも美しさも様々であり、その者の本質をうつす分身に等しいとされてきた。世界的に見ても大きな国、ファルメフォン王国内において牧畜産業で国中の食卓を潤す田舎地方ブエレラにひとり、核石の大きさに恵まれなかったばかりに、きょうだい、その中でも比して大きな核石を持つ姉と比べられ孤独を強いられた少女がいた。
少女の名は――……アリア。
家族の誰にも似ていない紅い髪、紅い瞳という容姿も相まって生まれてから一度として名すら呼ばれることもなかった彼女は家の汚点払い、厄介払いという名目でファルメフォン王国の中枢国セ・クラードンにある剣や魔法を教えるセルカディカ学園に入学が決められた。侮蔑と嘲笑そして憐憫に囲まれて育った彼女はなにも期待しないことで現実に目を向け続けていた。幼き日々、唯一味方をしてくれた亡き祖母の為にとりあえず「生きる」ことを目標にして。己の核石ではなんの望みもない、抱けない、抱かせてもらえない、ありえないから。そう、諦めて区切っていた為に。
孤独で。誰にも愛されず、存在さえ延々と無視され続けてきた憐れな少女アリアは中枢の国で生まれてはじめての善意に戸惑い、新しい悪意で抱いた嘔吐感を堪え、優しい厚意にしかし固く閉ざされた心開けず自己嫌悪し、核石の因果を悲しく思い、「核石が原因で傷つくなんて私くらいなものね」と自嘲した。――まだ、知らなかった。事情は違えど核石の特性が故に傷つき、涙を呑んでいる存在がいることを。そして、傷負う者同士、必然の運命でめぐり逢うということを。
学園の入学パーティにおいて非情で残酷な虐げに遭ったアリアを救ったのはなんと、王家の近衛騎士団統括軍団長にしてファルメフォン王国第三王子たるロフィン・ファルメフォンだった。核石が原因で傷ついた者同士惹かれあうふたり。婚約者と銘打った恋人同士になったふたりだが、聖女を「養成」しよう、という講学がひとつの障害として今、新たにアリアにとっての試練として立ちふさがる。
聖女養成講学の授業、第一回目を無事に終えてほっとしたのも束の間、学食に現れた魔族によって聖女候補生をごっそり丸ごと誘拐される、という大事件が起きる。自身の無力さに落ち込むロフィン。一方で魔界に連れ去られたアリアは無謀を極めて魔族の王と交渉を試みる。この勇気が果たして、どう転ぶか――。