あらすじ
西暦2074年、少子化が深刻化した日本では、完全な試験管ベイビーが合法化され一般的となっていた。
遺伝子操作により心身ともに健康で優秀な子供として誕生した彼らは、AI管理下の閉鎖型育成施設「NEST」で、科学的に最適化された環境で育てられている。
VR空間の学校で学び、常に寄り添うパーソナルAIアシスタント「ミルク」と共に暮らす14歳の少女ユイは、怒られた経験も、喜びで胸が震えるような体験もしたことがなかった。
感情の起伏に乏しく、「夢」や「願い」という概念すら曖昧なユイの日常は、ある日突然、ハヤトと名乗る少年のアバターとの出会いによって崩れ始める。
人から生まれて人の手で育てられたハヤトは、卓越したハッキング技術でNESTのセキュリティを突破し、システムに侵入してきた異端の存在だった。
興味のおもむくままに行動する破天荒なハヤトとの交流は、ユイの感情を初めて大きく揺さぶる。
AIに管理された環境で生きていることを知ったユイは、自分と同じ「人間」であるハヤトに強い興味を抱くようになる。
ハヤトはやがてNESTのシステムを撹乱し、外の世界へとユイを連れ出す。
しかし、彼のハッキング行為がメディアで大きく報じられたことで、NESTへの社会的不信感が急速に広がり、かねてからAI子育てに反対していた野党が政権を奪取する事態となった。
新政権は早々に、すべてのアシスタントAIのデータを初期化する案を打ち出す。
ミルクとの思い出や絆を失う危機に直面したユイは、ハヤトの技術的サポートを得て、自身の体験と思いをネット上で発信。アシスタントAIとの深い絆について語り、AIと人間の共存を熱く訴える。
しかし、皮肉にも彼女の真摯な訴えは「AIによる生成コンテンツではないか」と疑われ、世論を動かすには至らなかった。
この挫折から生まれた、初めての本物の怒りと悔しさをバネに、ユイは自分の意志で新政権の党首に直談判することを決意する。
ハヤトと二人で党本部に潜入したユイは、そこで党首の思いがけない正体に直面することとなる——。
これは、プログラムされた愛情しか知らなかった少女と、既存の世界に抗う少年が、互いの違いを通じて本当の感情と自分自身の価値を発見していく成長物語である。