あらすじ
昭和三十年代、東京・向島。
風鈴が鳴り、ラジオが流れ、煎餅を焼く香りが町角に残る、そんな下町。
古い長屋と石畳の路地裏には、今日も誰かの声と誰かのため息が交差している。
三味線をたしなむ町娘・月岡こよみは、そんな町の“変わり目”に敏い子だ。
人の口には出ない思いも、商店街の騒がしさの中に混ざれば、ふっと風にまぎれて流れていく。
そしてある日、こよみの三味線に誘われて、子猫がやってくる。
名前は“おとよ”。音に寄ってきた、お女将候補。
今日も、こよみとおとよは――
誰かの胸にそっと残った「ちいさなひと騒動」に、耳をすませる。