あらすじ
「走ることしか、知らなかった」
高校三年の木下馨(きのした・かおる)は、かつて将来を期待された陸上選手だった。
だが怪我をきっかけに競技を離れてからというもの、何にも夢中になれずにいる。
喧嘩もタバコもできないくせに、不良を気取って毎日をぼんやりと消費している彼にとって、残された高校生活はただの「終わりを待つ時間」だった。
そんなある日、帰り道で出くわしたのは、名前だけ知っていた野球部エースピッチャーの1年生・杉谷蓮(すぎたに・れん)。
彼がスリをしようとしている場面を、馨は偶然目撃してしまう。
見て見ぬふりを決め込もうとしたが、杉谷のぎこちない手つきと、その後に起きた暴力の気配に、馨は思わず名前を叫んでいた――。
「杉谷!走れ!」
その瞬間、止まっていたはずの時間が、また動き出した。
走る理由も、走る意味も失ったはずの馨が、杉谷の手を引いて、再び走り出す。