あらすじ
人と話すのが少し苦手な花咲(はなえみ)ひなは、街の居酒屋でひっそりと働く、不器用な女の子。
看護学校を中退し、静かに毎日をやり過ごす彼女には、誰にも言えないもう一つの“顔”があった――
それは、悩み相談を中心に配信を行うVtuber『花咲桜(はなえみさくら)』としての活動。
明るく快活で、いつも誰かの背中を押す“桜”は、ひなにとって憧れであり、心を守るための仮面でもあった。
配信では前向きな言葉を届けながら、現実では本音を隠し続ける自分。
そんなひなの小さな世界を少しずつ変えてくれたのが、バイト先の先輩・神崎鈴奈だった。
どこか自由で、優しくて、時に鋭い彼女との交流は、ひなにとってかけがえのない日々となっていく。
けれどある日、夢の中で“桜”は突然、ひなに別れを告げる。
記憶が薄れ、声が聞こえなくなり、配信も止まった。
何を目指していたのか、自分はなぜ“桜”になったのか――答えはどこにもなかった。
「私は、誰かのふりをして、何になりたかったの?」
自分を見失ったまま、それでもひなは歩き出す。
鈴奈が抱える“過去”、久しぶりに向き合う家族、そして姉との記憶。
かつて目を背けていたものに、少しずつ正面から向き合っていく。
誰かの心を咲かせるために生まれた“桜”は、やがて、ひなの心に咲く花になる。
それはきっと、ずっと心にしまっていた“やりたいこと”の種だったのだ。
これは、ひなと桜、ふたりの「わたし」が出会い、別れ、そして再び重なるまでの再生の物語。
迷いながら、それでも前に進もうとする全ての人へ――
そして再びマイクの前に立つその日、彼女はようやく気づく。
「私の言葉で誰かが笑ってくれるなら、それだけで、もう十分なんだ」と。