あらすじ

29歳、黒崎冴子。彼女は都内の老舗オークション会社「桐山アーツ」に勤める、冷静沈着で完璧なエースオークショニア(競売人)である。
黒のスーツに高いヒールを履き、わずかな表情の変化と巧みな言葉選びで億単位の美術品を落札に導くその姿は、まさにプロフェッショナル。
社内外から「氷の女王」とも呼ばれ、クールで近寄りがたい存在として一目置かれている。

だが、その素顔は──誰にも言えない秘密に満ちていた。

終業後、帰宅した冴子が玄関を開けると、そこはまるで異世界。壁一面に並ぶアクリルケースには推しの魔法少女アニメ『プリズマ☆ルミナス』のグッズがぎっしり。
ベッドの上には抱き枕、クローゼットには自作のコスプレ衣装。彼女は冴子ではなく、“夜空しずく”という名の覆面配信者として活動しているのだ。

しずくは魔法少女アニメへの情熱を語り、時に涙し、時にハイテンションで推しの尊さを絶叫する。
彼女の正体を誰も知らない。
数万人のファンを抱える人気配信者でありながら、会社ではその一片も見せない。
「オタク趣味がバレれば、信用を失うかもしれない」──そんな不安と、推しを語りたいという衝動のはざまで、冴子は毎日“二つの顔”を生きている。

物語は、高級絵画や骨董品が飛び交うリアルなオークション会場と、アニメグッズやコスプレであふれた部屋を舞台に展開する。
昼は「完璧な仕事人」として緊迫した競りを仕切り、夜は「しずくちゃん!」とコメントが飛び交う画面越しに推しの魅力を語る──まったく異なる世界を器用に行き来する日々。

しかし、そのギャップゆえの葛藤も次第に大きくなる。職場でのストレス、配信中のトラブル、そして「夜空しずく」の正体に迫る気配。
二つの顔を持つことの危うさと、そこに生まれる人間関係のズレ。
やがて冴子は、「どちらが本当の自分なのか」「自分らしさとは何か」という問いに向き合うことになる。

シリアスなビジネスの現場と、笑いと愛に満ちたオタク世界。全く交わるはずのなかった二つの世界が、ある日、静かに接点を持ち始める──。

これは、誰にも言えない“好き”を守るために、完璧を装ったひとりの女性の、痛快でちょっぴり切ない、ギャップ全開ヒューマンドラマ。

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アルファポリス
アルファポリス2025/04/12
  • 現在の作品二つの顔のオークショニスタ