あらすじ
鳥栖駅の東にある文化施設「サンメッセ鳥栖」。その1階ホールに、1台のドイツ製グラウンドピアノがある。
平成元年、そのピアノは製造から60年近くが経ち、体育館の片隅で埃を被り、ボールで傷を負い、足の代わりに学習机でその体を支えられていた。音も出ず誰からも見向きもされなくなっていたピアノは廃棄される予定だったのだが、そのことを聞いた1人の女性教員が、秘められていた戦時中の話を明かしたたことにより、運命が変わることとなった。その秘められた話とは─────
1945年、敗戦が色濃くなってきた夏に、佐賀県三養基郡鳥栖町(現鳥栖市)の鳥栖町国民学校に二人の青年が現れる。
二人は小学校の女性教員に「出撃前に本物のピアノを弾かせてほしい」と頼む。二人は遥々10km以上の道のりを線路伝いに走って来たという。
二人の願いは聞き届けられ、奏でられたその曲は─────ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2「月光」。まるで自分たち自身へ向けた葬送曲のように、その音色は響き渡るのだった。