あらすじ
一世を風靡した走り屋集団【情熱乃風】が活動をはじめて、四年目となる二〇〇七年。
リーダーが二代目となり、情熱乃風は質より量の集団に方針が変わっていた。地元では、少数精鋭時代に憧れていた走り屋集団に仲間入りするものはあとをたたず、井口玲司もその一人だった。
井口の走りの原点は、小学生の頃に学校で一番になったスーパーマリオカートだ。中学受験に失敗した頃に、ゲームセンターで出会った恩人のもとで、リッジレーサーの腕を磨いた。そして最近は、田舎町の岩田屋で働きながら、毎週末の夜に峠を愛車で駆け抜けている。
両親が離婚の危機に直面している中で、井口は初めて結婚式に出席する。おめでたい結婚式のあとに、真逆の離婚問題と向き合う必要がある。だが、新郎の友人たちと再会した瞬間、この場に似つかわしくない離婚なんていうものは頭から消えてしまう。
新郎はリッジレーサーを通じて、井口を成長させてくれた恩人だ。新郎の友人として、共に式に出席するリッジレーサー仲間と集まれば、一気に気持ちが若返り、変わっていないのを実感する。
残念ながら、親友の変わらずに成長してほしかった部分も、疎遠になった頃から変わらず失われたままだ。
新婦は走り屋集団の先代リーダーだ。スーパーマリオカートやリッジレーサーに初めて触れたときの感動を、仕事ばかりの井口に与え、二十代になっても青春が終わっていないのを峠を駆け抜ける姿で教えてくれた。
そんな新婦は親族の反対を押し切って、走り屋集団をたちあげ、結婚も独断で決めた。その結果、新婦の兄が同じ日に地元で結婚式を挙げることとなり、親族は全員欠席する。地元で職を失わないためには、兄の結婚式に出席するべき、と新婦が通達したことで、友人もほとんど欠席する。
それでも新婦のために集まったものはいる。その中には、式に出席する予定のなかった副リーダーの姿があった。
井口は副リーダーが嫌いだ。
副リーダーが、リッジレーサー仲間内で最速の親友と似ているせいだ。親友がつまらない男に変わることなく成長していたら、おそらくこんな二十代になっていたのだろう。
そして井口は、先代が地元に置いてきた愛車を賭けた勝負に巻き込まれていく。
新体制の走り屋集団において大多数の中の一人でしかない井口では、少数精鋭時代の象徴たちに勝ち目はないと思われた。だが、結婚式の二次会で酔っぱらった連中相手に、レースゲームで勝負するとなると、結果はわからない。
両親の離婚問題よりも勝負を優先した以上、井口も負けるわけにはいかなかった。