あらすじ
SID-COMによって思考と精神が直接ネットワーク化されるという物語を思いついたのは1998年ごろのことでした。
それから25年以上が過ぎ、ようやくこうして作品を公開することができました。
「クォンタム・ブレインズ」というシリーズとして、この小説を展開していく予定です。
第4部までの構想はできていて、今は第2部の執筆をしています。夏までには第4部までに書き上げる予定です。
あらすじ
西暦2058年、思考をネットワークに接続する生体侵襲型BMI「SID」が普及し、広告経済が終焉を迎えた福岡。この都市の片隅に佇むエリート養成校・桜花学院で、不可解な出来事が静かに始まっていた。ベテラン教師エドワード・ジェンキンスが謎の失踪を遂げ、その数週間後、学院内では原因不明のポルターガイスト現象や、生徒たちのSIDに奇妙な不調が現れ始める。
物語の冒頭、ジェンキンスは自身の研究室で、生徒であるシャオ・ツーと彼の異様なファミリア「フロイド」に遭遇。アンプラグドであるはずのジェンキンスにも認識できるほど実体化したフロイドから「特別なSID」による干渉を受け、意識が変容し、物理的に消滅してしまう。
一方、学院の教師である岡崎ゆかりは、生徒たちのSIDの不調とジェンキンスの失踪に頭を悩ませていた。SIDを通じて匿名で送られてきた「広告経済の終焉」に関する専門家たちの議論ログにアクセスした彼女は、SID社会の裏に潜む情報操作や意識への介入の可能性を知り、不安を募らせる。ファミリアのウェルテルとの会話を通じて、SIDCOMやICA(インターワールド・コントロール・オーソリティ)といった巨大組織の存在と、その活動の謎めいた側面に触れる。
ICAのエージェントである常楽院雛子は、イタリアの本部から桜花学院へ派遣される。彼女は「心霊ハッカー」としての特殊な能力を持ち、SIDネットワークの深層にアクセスできる存在だ。学院長・山城や岡崎と面会した雛子は、その奇妙な自己紹介で彼らを戸惑わせつつも、事件の調査を開始する。
時を同じくして、アンプラグドの探偵、木暮”グレッグ”雅人もまた、情報屋ディアムからの依頼を受け、桜花学院の調査を開始していた。彼は、学院内で噂される違法電子ドラッグ「ガム」の流通と、ジェンキンス失踪との関連を疑っている。かつて雛子と恋人同士だったグレッグは、十年ぶりに訪れた福岡で、ICAの介入という新たな情報を得て、事件の複雑さを予感する。
SID装着後、異常なほどの適応力を見せる生徒、斎藤嘉樹。彼はSIDによる万能感に酔いしれ、自らを「選ばれた人間」と信じ込み、古い男尊女卑的な価値観を自身のファミリア「ジュリア」に強要しようとする。だが、SIDCOMの倫理フィルターに阻まれ、不満を募らせていた。彼は、SID装着初期の「情報無制限循環」や「思考渦」を経験しつつも、それを「進化」の過程と捉え、さらなる力の獲得を目指す。しかし、その代償として、読書や芸術といった人間的な感動を味わう能力が希薄になっていることには、まだ気づいていない。
そして、雛子はSID不調を訴えるもう一人の生徒、坂本直行(奈央)との面談に臨む。女装を自己表現とする彼は、自己認識の揺らぎと、SIDがもたらす現実と仮想の境界の曖昧さに悩んでいた。雛子は、彼の深層意識へのインベイシブ・ダイブを試みる。
ダイブの中で、雛子は坂本直行の記憶を遡る。それは、物語開始の半年前、彼がシャオ・ツーと初めて深く接触した日の出来事だった。教室で、シャオ・ツーのファミリア「フロイド」が、物理的な鉛筆を動かす「デジタル意識の物質化」というありえない現象を目の当たりにする坂本。彼は、シャオ・ツーから、学院のバンディズムの裏に隠された人格転移計画、SID-OSの非合法な書き換え、そしてシャオ・ツー自身による養父母殺害という衝撃的な告白を聞かされる。そして、シャオ・ツーとのキス(情報共有・OS書き換え)により、坂本の肉体は女性へと物理的に変容し始め、未知の力「霊子」に関する知識と能力が覚醒し始めるのだった。
雛子は、坂本直行の意識のさらに奥深く、彼自身も気づいていない「アビス」と呼ばれる領域へと侵入しようとするが、そこで強烈な「拒絶」の意志と、何者かの干渉に遭遇する。