あらすじ
高校二年の高橋いづるは、小学生からの病弱な幼馴染の蝶之茜(ちょうのあかね)の死を忘れられずにいた。
*******
絶対元気になろうねと未来を約束したあの日。君への思いがただの友情ではなく、恋心なんだと自覚したあの日。いつだって優しく笑ってくれた君が、とりつろった笑顔の裏の、悲しげな表情。そして、どこか遠く見つめた、茜色に染まったあの夕日。病が悪化した中学2の冬、お見舞いから帰ろうとドアに手を付けた瞬間の、あの呟き。僕に伝えるにしてはあまりにも小さく、だけど、しっかり聞こえた心の叫び。
君のか細く震える鳴き声。
僕は何も言えず、これ以上聞きたくなくて、逃げ出すように、扉を閉めた。
その後、しばらくして訪れた君との別れ。やるせなく立ち尽くす君のお父さん。大声で泣き叫び、冷たくなった君の細い手を握る君のお母さん。僕の両親は涙ぐんでいた。僕はこれが現実だと信じたくなかった。でも勝手に流れる涙に、僕と君はもう別れるんだと信じさせられた。僕はとうとう、君に告白できなかったんだと。
俺は、何もできなかったんだ・・・。何も言えなかったんだ…。
ただ暗く閉ざされた部屋で独り泣く。
ーーーー
私、蝶之茜は、幼馴染のいづるが大好きだ。生まれたときから病弱で、階段を上がるにも体力を使ったあの体では、一人で生活するのは難しかった。そんな私を支えてくれたのは、私の両親ともう一人、高橋いづるくんだった。小学生の時から、自分を守ってくれた君は、私にとってかけがえのない友達だった。いや、心の中で自覚していたんだ、友達以上の、最初の恋、初恋の存在だということに。
中学生を前にして、持病が悪化し、私は入院を余儀なくされた。
白い蛍光灯に照らされた診療室で、先生が両親に告げた私の余命。その瞬間が、私の心のどこかで、笑顔が消えた瞬間だった。
それにも関わらず、君は暇があれば私にお見舞いに来てくれた。あの時、君は意味深に「俺も死ぬときは、君と同じ夕日を見たいな。」と言った。私は、返事ができなかった。それどころか、君と目を合わせることすら、できなかった…。
―――君とずっと一緒にいたい。
―――君の横顔をずっと見ていたい。
―――君の横でずっと笑っていたい。
―――私は、もっと、生きたい。
ただ痛む心臓が、私を蝕む。私は君のそばにいるのがつらかった。
君は私の余命宣告なんて知らないはずだったし、死期を前にして話す言葉だなんて悟られたくない。そう思って、今にも溢れそうな涙を無理やり我慢した。残りわずかだって知ってる君との時間だから、君を前にして痛む心がどんなにつらくても、帰ってほしいとは言いたくなかった。
不自然なほどの沈黙が続いた。その時の君の顔を、とても見れなかった。
30分もしただろうか、君がまたねと言って病室のドアを握って小さく笑った。
私はとうとう我慢できなかった。
「なんで、なんで。私は、もっと、ずっと、いづる君と一緒にいたいよ...」
無理やり押し殺した小さな声は、涙とともに、静かに病室に広がった。私のだった華奢な手が、震える。あの時壊れた心の笑顔は、バラバラに壊れて、今涙となって、とめとなく溢れ出す。
君は何も言わずに、静かに扉を閉めた。
「好きだよ、いづる君。私は、あなたが、大好き。」
聞こえるはずのない告白。私はとうとう彼に愛を伝えられなかったんだと、本能で悟った。
私は、ずっとずっと、いずる君といたい。私はとうとう、生まれて初めて自分の体の不自由を恨んだ。明るく振舞おうとしていた自分が壊れたのがわかった。
私の体の近くで泣く両親、いづる君、いづる君の両親、私は死んだんだと理解した。
静かに涙を流すいづる君に、
「私はここにいるよ、いなくなってないよ!」
と叫んでも、聞こえない。私だった体に入ろうにも入れない。現実の残酷さに泣き叫ぶばかりだった。