あらすじ
拳ひとつで立つと誓った少年ユウは、田舎町の剣術道場《剛気館》で毎日鍛錬に明け暮れていた。
道場主の娘であり、幼なじみの少女・アイリ。
彼女はいつも真面目で、少し頑固で、だが誰よりも純粋で強くなろうとする姿がユウの誇りだった。
互いに想いを明言することはなかったが、ユウはアイリと心が繋がっていると信じていた。
だが、そんな静かな日常に異物が現れる。
中央都市の異能機関から派遣された監察官・カイザ。
彼は格闘技術も高く、そして異能《共感支配(エンパス・コントロール)》の持ち主だった。
その能力は「対象の尊敬・感心・憧憬」を“依存”へと変質させる――精神をじわじわと侵す、感情操作の異能だった。
「すごいな、カイザさんの技……」
「この人の言うこと、すごく納得できる……」
「私、間違ってたのかも……」
最初は訓練の助言を求めるだけだったアイリ。
だが、彼の言葉に耳を傾ける時間が増え、笑顔が増え、口調が変わり、ユウとの距離が徐々に開いていく。
ユウは焦り、戸惑い、そしてカイザに挑む。
「アイリは、あんたのものじゃない……!」
だが異能の前に、その拳は届かず、地に伏した。
それでも、アイリはまだ笑ってくれた。
「ユウ……私、強くなりたいだけなんだ。誤解しないで」
――その言葉を、信じたかった。
だがある夜、ユウは道場の裏で見てしまう。
カイザとアイリが密室で言葉を交わし、彼女がうつろな表情で彼に寄りかかっていたことを。
その瞳に、ユウはもう映っていなかった。
アイリはもう、戻ってこないかもしれない。
だがユウはあきらめない。
拳に異能はない。だが魂だけは、侵せない。
いつか、彼女の心を取り戻すために――