あらすじ
<夏の日の扉>
向咲日葵(こうさき はるき)は、未来の記憶を夢に見た。
立派な医学博士になっていた都合の良い夢を、受験に追いつめられた妄想と、笑おうとした。
だがその記憶の通りに、部屋の扉を開いて、幼馴染の八尺芙美花(やさか ふみか)が現れた。
記憶の未来では、芙美花は難病の治験で渡米して、三年間の闘病も甲斐なく、その地で亡くなっていた。
日葵は自分の無力を知りながら、最後まで側にいることを芙美花に誓い、引き留める。
芙美花も応えて、二人は手をつなぎ合い、記憶の未来とは違う一歩を踏み出した。
医学博士の鏑木日葵(かぶらぎ はるき)は、自身が開発した終末医療用の記憶再構成装置による走馬灯の中で、生涯、悔やみ、背負い続けた弱さから、自己満足という形であっても確かに救われて、臨終した。
<秋の夕暮れと超機動合神サーガンディオン>
故・鏑木日葵の夫人である鏑木小百合(かぶらぎ さゆり)のもとに、アメリカから招待状がとどく。
差出人は八尺芙美花となっており、小百合は、亡夫の臨終に立ち会った医師の一条(いちじょう)、三鷹(みたか)、技師の五乃(ごだい)を連れて渡米し、ついでに一条の娘の鳳澄(ほずみ)も巻き込んで、亡夫の秘密の足跡をたどることになる。
約五十年前、アメリカで芙美花が参加した治験は、失われていく脳機能を補完する、外部の代替システムの構築がテーマだった。
芙美花の死後も続けられた研究に、善意の協力者という形で鏑木博士も関わっており、現在、そのシステムは、あらゆる機械を増幅した脳波で遠隔・集団操作する技術として、最先端の軍事兵器に活用されていた。
一条たちがひもとく日葵の思い、それを汲んでいたアメリカ政府は、準軍事機密の永年管理物質となっていた芙美花の遺骨の、超法規的な譲渡を申し出る。
芙美花と日葵を共に埋葬するため、遺骨を受け取って、小百合と一条たちは、ささやかな旅から帰国した。
<冬の星に願いのようなものを>
大晦日の残業を終わらせて、職場の食堂でダラダラしていた五乃(ごだい)に、陽気な声がかけられた。
声の主は、秋のアメリカ旅行で知り合った一条(いちじょう)の娘、鳳澄(ほずみ)だ。
正確には、鳳澄がロサンゼルスから遠隔操作する、日本での営業が開始されたばかりのレンタル・ヒューマノイドだった。
大学卒業までの課題が逼迫し、一条(いちじょう)との約束だった年一回の帰省を、未来的アメリカンな感覚で実行する鳳澄に、五乃はあきれ、三鷹はおもしろがり、一条は頭の整理を放棄する。
なんとなく二人で、正確には一人と一台で帰る道すがら、五乃は鳳澄から、卒業後の帰国の意思を告げられる。
ついでに別れた元恋人と、時差十一時間の向こう側で警察沙汰になった鳳澄が、ヒューマノイドを待機状態にしてしまい、五乃は真夜中の道端に取り残された。
動かせない精密機械を放置するわけにもいかず、五乃も五乃で、星空を見上げながら今後の抱負を指折り数えて、新年早々の風邪をひくのだった。
©️司之々