あらすじ
クラスの『陽キャ一軍女子』である倉橋美月は、誰もが名前を知るような人気者だった。明るく、人懐っこく、コミュニケーション能力もずば抜けている。クラスの中心にいて、どこにいても注目を集める存在──そんな彼女が、ある事件をきっかけに一気に転落する。
きっかけは、同じグループ内の恋愛トラブルだった。美月が親しい友人の彼氏を寝取ったという噂が立ち、SNSでは裏アカの悪口スクショが出回り、彼女は一瞬で“敵”にされた。言い訳すら聞いてもらえず、翌週には孤立状態。クラス中から白い目を向けられ、味方だった友人も掌を返したように去っていった。
孤独と悪意の渦中で、美月が唯一気を許しはじめたのが、クラスの中で空気のように存在していた俺だった。
気がつけば、美月は毎日のように俺に話しかけてくるようになり、連絡も頻繁に寄こすようになった。俺が他の異性といると不機嫌になり、既読をつけなければ深夜までLINEが続く。日に日に彼女の態度は変わっていった。
甘えた声、くっついてくる距離感、他人を遮断しようとする束縛──。
だが、それを拒絶できなかったのは、俺の方かもしれない。誰にも期待されず、誰からも注目されなかった俺にとって、美月の“必要としてくれる感じ”は、どこか満たされるものがあった。
気づけば、俺も彼女に依存していた。
彼女の笑顔が見たいと思い、彼女の機嫌を損ねないように動き、彼女の悲しみに胸を痛めるようになっていた。彼女のために何かをすることが、俺の存在価値になっていったのだ。
歪な共依存。
それでも俺たちは、確かに一緒にいた。社会的には壊れかけの女と、どこにでもいる地味な男。誰にも理解されない、奇妙で危うい関係。
それが、俺と倉橋美月の始まりだった。