あらすじ
「死刑」とは、ただ法がくだす罰ではない。
その言葉が口にされるだけで、空気は濁り、人々の顔は硬直する。
わいせつ事件を追う記者の物語。
人は、命を奪わずとも、誰かの人生を終わらせることがある。
そして、その代償に自らの終わりを選ぶことはできない。
選ぶのは国家であり、裁判所であり、そして法律だった。
「死刑か無期懲役か」
この回答は長い間、私の中で、終わらないチャイムを鳴らしていた。
法廷に響いた言葉は、どこか異国の地にて聞いた言葉のようであった。
けれども、それは、現実であり、この日に裁かれていたのは確かにたった一人の人間だった。
暴力や脅しはない。ただ、沈黙の中で行われた行為だった。
16歳の少女は声を失っていた。いや、最初から出せなかったのかも知れない。
問題は「それが強姦だったのか」ではなかった。
問題なのは「それが強姦致傷として、人の人生を奪ったと裁けるのか」であった。
そして、何よりも問題なのは、「その男に死をもって償わせるべきなのか」という一点だった。
無期懲役は生きて償うという刑だ。死刑は償いすらも絶つ。
国家が最終的に「救済の予知なし」と断じた証でもある。
法律は感情では裁かない。しかし、感情抜きにして人は人を裁けるのか。
被害者は語った。涙を流さず、震えもせず、ただ静かに。
「怖かった。でも、怖いと思うことすらも、許されていない気がしたんです。」
彼女は抵抗しなかった。その事実を被告人は「同意だった」と主張した。
だが、裁判所は違うとみた。性的無知と驚愕による抗拒不能(こうきょふのう)状態に
あった少女に対して、その状態を知りながら、性交に及んだ本件は、極めて悪質かつ、
強姦致傷に該当する」裁判長の声が傍聴席に響き、傍聴席の空気が一気に加速度的に重く圧し掛かる。
呼吸の音すらも、罪に触れる気がする。
判決は、明日言い渡される。-どちらにしても人生は戻ってこない。
「抵抗できなかったのは、同意だったからだ。」
被告人は最後まで、主張を覆さなかった。
だが、証言台に立った少女の声は震えていなかった。
「怖くて、声が出なかった。何が起きたのかわからなかった。」
「ただ、体が動かなくて……。」
弁護人は「驚愕による抗拒不能とは曖昧だ」と指摘したが、裁判官の目は、静かに語る少女の視線から逸れることはなかった。