あらすじ
主人公・矢磯 十吾(やいそ じゅうご)は、小学校の遠足でとある山奥にいった際、友人と隠れんぼをしていて朽ちかけた社(やしろ)を壊してしまう。
社に安置されていた箱を、好奇心から開けてしまった彼は、中に封印されていた悪霊に取りつかれてしまった。
悪霊は、見た目には巫女の姿をした美少女だが、取りついた人間と縁のある人間が死んだとき、その霊魂を食べることで生活していた。
十数年後。大人になった矢磯は、表では個人の運輸業、裏では逃がし屋を生業とする二十代中盤の青年となった。そして、ネコの鳴き声と渚の波音に安らぎを感じる人間でもあった。さらには、あいかわらず『彼女』に取りつかれてもいた。
二○二四年五月の晩。
夜逃げを希望する顧客の指定に応じて、彼は静岡県北東部にある廃倉庫に一人できていた。
しかし、そこには死体が一つあったきりだった。死体は五十代くらいの男性としかわからず、外傷や肌の傷みはなかった。合流するはずの顧客は、ついに現れなかった。
死体を改めてから、矢磯は、スマホに登録した自作アプリを起動した。そこで猫の鳴き声と波音を聞き、心を落ちつけた。彼女はさっそく死体の魂を食べ、それが今回の仕事にかかわっていると矢磯に告げた。
ともかく、面子を潰されたからには、徹底的に元顧客のあとを追って落とし前をつけねばならない。それは死体の真相をつきとめることを意味する。
山と海にまたがるエビス伝説は、現地の人間達によってなんとも生臭い話になっていた。否応なしに、矢磯は欲にまみれた因縁へと巻きこまれていった。