あらすじ

東京の人材派遣会社で働く渚菜緒子は、日々の忙しさに追われながら、ふとした瞬間に故郷の漁港の町を思い出していた。ある夜、都会の雑踏の中で、懐かしい男性の歌声が耳に届く。それは、故郷でよく聴いた曲——「HOME TOWN CUITE」だった。

そのメロディに誘われるように、彼女の心は幼い頃の記憶へと遡る。防波堤の上で見た夕陽、母が営んでいた小さな店、店内に流れていた下手なブルース。かつての友人と語り合った夢や、母が見守る中で育った日々が、胸の奥から鮮やかに蘇る。

しかし、都会での生活に追われるうちに、菜緒子はいつの間にか故郷との距離を感じるようになっていた。母との電話も久しく、便利で合理的な日々の中で、本当に大切なものを見失っていたのかもしれない。

「あばよ」の一言もなく離れた故郷。しかし、心のどこかでいつも帰りたいと願っていた。懐かしい曲が流れる中、菜緒子は思い切って母に電話をかける。変わらずそこにある母の優しい声に、彼女は久しぶりに帰ることを決意する。

週末、スーツケースにジーンズとスニーカーを詰め、母の好きだったブルースのCDを手土産にして、菜緒子は故郷へと向かう。都会では得られなかった何かを、再び見つけるために——。

過去と現在、故郷と都会の間で揺れ動く心を繊細に描いた物語。都会で生きる人々が忘れがちな「帰る場所」の大切さを問いかける一編。

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アルファポリス
アルファポリス2025/02/20
  • 現在の作品『潮風の記憶- 第一章』