あらすじ
窮屈で狭苦しいベランダは使い勝手の良いものではなく、翔真も母もわざわざ踏み入ることはなかった。過去に取り残されたようなその小さな廃墟で、翔真は母に隠れて煙草を吸うようになる。
ベランダに出る度、翔真は視線を感じていた。
アルミ製の手すりの向こうに見下ろせる一階の暗い庭。そこにいつも、一人で遊んでいる幼い男の子の姿があった。
何度となく翔真が目を向けても、下の子がベランダを見上げているところは一度も目にすることができていない。
おそらく錯覚なのだろう。
翔真はまた、視線の中で煙草を咥えた。