あらすじ
「少尉さん! 少尉さん!」
10歳のアン──アンシェリーは、今日も広い背中を追いかける。
彼は、王国の近衛隊副隊長の父の側近で、近衛連隊で最も美しいと言われる下士官、レイルダー少尉。
いつも物憂げな彼は、軍人としては優秀で、そっけない態度と美貌で社交界のご婦人方の視線を集めている謎めいた男だ。
恋人の噂も絶えないレイルダーだが、アンにはいつも優しい。小さな女の子を可愛がる態度で、彼はアンだけに微笑んでくれる。
美しい宝石色(フォスフォフィライト)の瞳で。
しかしその優しさは、彼女が上官の娘だからだとアンは知っている。
だけど彼女はくじけない。
レイルダーに振り向いて欲しいと想いを込めて、アンはその姿を見つめるのだ。
そして気づいた。
いつも眠たげな宝石色の目は、一人の女性──血のつながらないアンの母親を見ている。
──ああ、そうなのね。私たちは二人とも、叶わない恋をしている。
でも、それがなんだというのか。
「好き」は誰にも止められない!
いつか自分を見てもらいたくて、アンは苦手な勉強にも、いつもからかってくる苦手な男子生徒にも立ち向かっていく。
そんなアンには小さな秘密があった。
それは馬の気持ちが伝わること。乗馬はアンの唯一の取り柄だ。
そして少女は成長する。子どもの殻を脱ぎ捨てて、自分の世界を広げていくのだ。
どんなに自分が娘として、魅力のある存在になったかに気づきもせずに。
「アン、俺と一緒にパーティに行ってみるか?」
初めてレイルダーから夜会に誘われた時、天にのぼる心持ちでアンは一晩の夢をみる。
そうして、世の中が大きく変わり始める。
──戦争へと。
北の辺境領主が、王国に反乱の狼煙(のろし)をあげたのだ。
かつての常勝将軍だった功績により、アンの父は戦場へと向かうことになった。
そして、大好きなレイルダー少尉も、また。
「軍には関わるな。アンは清潔で安全な場所にいるべきだ」
16歳になり、看護の勉強を始めたアンにレイルダーは厳しく告げた。
「言うこと聞けません!」
それはアンが、初めてレイルダーに反論した瞬間だった。
やがて戦争が激しくなり、父が負傷したとの報告を受けるアン。
戦場へと駆けつけたアンに、父はレイルダーが敵陣の奥深くで行方不明になったと告げた。
そして語られる、父とレイルダー、そして母とアンの血の秘密。
今までなんとなく感じていた、ささやかな疑問のピースが形を成していく。
そしてわかった。
なんの役に立たないと思っていた、馬との交流ができるアンの力が、レイルダーを救えるかもしれないと言うことを。
「絶対に見つけます!」
愛されなくたって構わない。
あなたが生きていさえすれば。
あなたの瞳が時折私をみてくれるだけで幸せなの。
「こっち向いて! 少尉さん」
アンは数名の精鋭、そして愛馬と共に、レイルダーを救出するため、夜の国境の川を渡り最前線へと向かうのだった。
片想いから始まる、少女の成長と試練、そして恋の物語です!
是非読んでください!