あらすじ
――2017年8月5日。
「お兄ちゃん!行くの!行かないの!」
「ったく、うるせーなー!面倒くさい!」
「何!その態度は!お母さんに言いつけるからね!」
「はいはい、好きにすれば――」
「きぃぃぃぃ!」
妹の千草とは毎日口喧嘩をしている。喧嘩をしているはずなのに、翌日にはその事を忘れ、また顔を見ては同じ事を繰返す。
その年の夏、僕達は3年ぶりにホテル百鶴に行く事になった。母の故郷でもあり、毎年帰っていたあの場所。
しかし去年、ホテルを経営していた叔父が亡くなった。それからホテルは営業をしていない。母の話では、廃業となったホテルの相続やら、土地の売買やら、大人の事情があるらしく、母が1週間程仕事を休んで行く事になったそうだ。
僕と千草は当初留守番の予定だったのだが、祖母が「孫に会いたいから連れて来い」と言う話になり急遽連れて行かれる事になったらしい。
それから毎日、千草と同じやり取りを繰り返していた。
「……また湖にでも行ってみようか」
僕が行こうと決めたのは出発前日の事。母は喜んでくれたが、何も準備していない僕と、準備万端の千草はまた口喧嘩に発展したのは言うまでもない……。
…
……
………
「おい!君!何しとるんだ!おいっ……て……」
「うぅぅ……」
「君、泣いているんか……?」
あの日、僕が気を失った後……あの穴は崖崩れで塞がったのだと思った。目の前に転がる岩を見ると、あの日見た与一の後ろ姿がそこにある様で……涙が流れた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕の感情はそこで一気に爆発した。この穴の中でどれだけ怖い目に会い、そして……いつきと与一はどんな思いで死んだのか。
それを考えると胸が張り裂ける思いがした。
完結・2025.3.7