あらすじ

閏井(うるい)賢治と宇留井(うるい)健一は血族ではなかったが、瓜二つの美少年であった。道行く人が振り返るほどの美形であった上、鏡に映したようにそっくりであったので、いつも多くの人の目を惹いた。彼ら自身も互いを互いのドッペルゲンガーと信じ、特別な結びつきを感じていた。  小中高と同じ学校に通い、常に行動を共にしてきた閏井と宇留井は、別々の大学に進学した後も共に宗教史を専攻し、研究者への道を歩んでいった。だが、宇留井が神道化したキリスト教を研究テーマとしたことから欧米の研究者からも高い評価を受けたのに対し、閏井は研究者として芽が出ず、私生活も充実したものとはいえなかった。こうしたことから宇留井に対して引け目を感じるようになり、次第に二人の間は疎遠になっていった。  いっぽう宇留井は、調査対象にしていた聖母(しょうも)神社の娘、叡理(えり)と結婚し、彼女を研究パートナーとしてヨーロッパに移住。金回りもよくなりセレブのような生活をするが、やがて学界から遠ざかって研究に没頭するようになっていった。  宇留井の結婚から14年、閏井は風の便りで宇留井の妻が死んだことを知る。久しぶりに連絡をとり、お悔やみを述べ、懇請されていたにもかかわらず結婚式を欠席したことを詫びると、宇留井はある計画を準備中だと明かした。そして、生涯最後の願いになるから、今度こそ必ず来てほしいと言う。  それからさらに10年の時が流れ、宇留井からの招待状が閏井のもとに届く。閏井はその招待を受けることに決め、長崎空港からレンタカーに乗り、とある半島の先端にある宇留井の屋敷へと向かう。この物語はその場面から始まる。  「丘の上に建つ墓標を思わせる建物」と宇留井が伝えてきた屋敷は、明治時代に建てられた修道院の廃墟を改造したものであった。ここで出迎えた旧友を見て、閏井は背筋が震えるほどのショックを受ける。荒んだ生活のため年齢以上に老け込んでいる自分と同じように、宇留井も老いていたからだ。  修道院は内部を現代的にリフォームしてあるが、ゴシック小説の舞台みたいな不気味な雰囲気がある。閏井にあてがわれた部屋からは修道士の墓所が見えることもあって、彼は不安を感じる。宇留井がいうには、この修道院はシトー会の修道士たちがサンクト・ガレン修道院をモデルに建てたものだが、完成して程なく見捨てられた。修道士の大部分が亡くなったためで、墓にはその時の死者たちが埋葬されているのだという。閏井はのちに、修道士たちの死に秘められた二重の真実を知ることになる。  修道院の聖堂も補修がなされているが、そこはもはや神を崇める場所ではなく、叡理を祀る場所にされており、本来は会衆席が並ぶ身廊は古今東西の珍奇な魔道書などを集めた図書室となっている。ここで閏井は叡理の生き人形、そして本人の遺体と対面することになる。  宇留井はこのような場所に、叡理づきの女中だったという麻利を後妻とし、数人の使用人とともに生活をしている。彼はその理由を、その半生を振り返りながら語り始める。そして、叡理が〝記憶をなくした悪魔〟であることを明かす。  宇留井は言う。悪魔としての叡理は、人間の肉体に閉じ込められた状態にある。肉体の枷から解放されて元の姿に戻るためには、一度死んで復活する必要がある。神がかつてそうしたように。しかし、悪魔は神のように三日で復活を遂げることはできない。10年の時が必要だが、10年を1時間でも過ぎてはいけない。  ヨーロッパに渡ってからの叡理と麻利、宇留井は、悪魔を復活させる方法を探るため、各種の聖典や魔道書を集め、記録を探り、オカルトの専門家と意見交換をしてきた。そして、この世にたった1組だけ残るカードに行き着いた。  準備を整えた叡理は復活の儀礼を宇留井と麻利に託して死に、宇留井は居を修道院の廃墟に移し10年かけてその用意をした。  この復活の儀礼に閏井も招待されたのは、彼の立ち会いが儀礼を行なう上での不可欠な条件となっているからだ、と宇留井は言う。  こうした話を聞いたこともあって閏井は、老人を焼死に追いやった事件や、不穏で美しい〝おばさん〟との奇妙な出会いといった少年時代の出来事を思い出していく。修道院に押し入ろうとした三人組の男が叡理の生き人形に惨殺されるといったことも起こり、閏井の滞在生活は次第に現実離れした様相を呈してくる。  そして、儀礼は執行され、悪魔は意外な形で復活する。悪魔は宇留井を殺し、美少年時代の傲慢で残酷な行為から二人が悪魔の呪いを受けていることを、閏井に教える。少年時のその事件から老いて死ぬまでの人生を、無限に繰り返しているのだと悪魔は言う。  閏井は隙を突いて逃げ出すが、悪魔は思いもよらぬ最期を閏井に用意しており、呪いから逃れられないことを思い知らされる。

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カクヨム2024/09/05
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