あらすじ
高校に入る頃には、由美は心理学や哲学に興味が移行していた。
文章や散文詩、気が向けば絵画も自分の好きなように描いていたが、自分の好きなもので生活したいほどの強い要求は見いだせなかった。自分が養女であることの自覚が、思春期特有の情熱に自分を委ねたい、という感情を押さえているのも確かであった。自分と同年代の友人達が恋愛に夢中になっているのを見ても別に羨望も興味もわかない。
由美は友人から見れば変人の部類に属していた。だが、嫌われていたわけではない。むしろ、皆の人生相談や悩みを聞いては的確な助言を与えていた。単に異性に興味が無い、これだけでも十代では変人に値する。
短大に入ったのは、ただ早く仕事をして自活をしたかった、それだけである。由美は、高校の頃から本代や映画などの自分の小遣いはアルバイトで稼いでいた。一カ月の本代だけでもばかに出来ない金額だった。
今の会社に入ったのも単に養父を安心させるためである。 由美は自分を決して出さないこと、目立たないこと、これが周りとのバランスを保つ技術であった。演技といえば演技である。しかし、誰もが日常のなかで演技をしている。社会のなかでこの演技が出来ない人間は簡単に自滅する。由美は文学を通しても、現実でもそれを学んだ。
由美は、自分自身でもこの全てを相対化するものの考え方が決して好きではない。だが、他にどう考えて良いのか方法が見いだせなかった。