あらすじ
第1章を無料公開中
あらすじ
都内の高校に通う小峯結風香は、先日亡くなった祖母の遺品である一冊の古いノートを、母から渡された。それは、祖母が小学校に通う前の終戦間近に、その母が天神様の鳥居の前で倒れていた若い女性から預かったものだった。
「必ず取りに来る」と言って病院に運ばれて行った女性が、ノートを取りに戻らないまま月日は流れ、今それをどうするべきかを、読書好きの娘に考えてほしいと母が頼んだのだった。
学業は常に学年上位だったが自分の目標が定まっていない彼女は、表紙に『西野悠子』と書かれたノートを読み始めた。
戦時中の社会や学徒動員などの知識を充分に入れ、工場勤務や食料と物資の不足が辛い思い出として書かれていると覚悟していたが、そのノートには国を挙げての総力戦の最中、結風香と同じ年齢を精一杯に生きる当時の少女の淡い恋心や青春が生の声として綴られていた。
満員電車で出逢った男女の学生は、惹かれ合うも戦時中という社会情勢から再会を諦めていた。唯一の機会と思われた出陣学徒壮行会でも再会は叶わなかったが、翌年二月のある日、梅の香る湯島で偶然の再会を果たし、お互いに世界一美しい言葉として、日本語の「サヨウナラ」を大切に思っていることを知る。彼は出陣学徒として陸軍の軍服に身を包んでいた。
戦争が終わったら、梅の香りに包まれながら富士山を望める谷保に行くと約束し、あえて名乗り合うことなく、それぞれの場所へ戻った。
悠子は彼を「飛梅の君」と呼び、その時々の想いを彼への手紙の代わりとして綴っていた。
最後の勝利を信じて神風が吹くのを心待ちに、学業もお洒落も満足な食事すらも我慢して銃後で戦った女学生と、愛する人がいる祖国のために夢半ばに前線で戦った出陣学徒。
敵としてアメリカと戦いながらも敬愛する気持ちが拭えないまま、前線は崩壊し銃後は戦場と化していく。
ノートを読み終わった結風香は、二人の約束の地、梅の香る谷保の梅林で様々な気付きを得る。