あらすじ

「ねぇ鳴亜梨ちゃん、なんか面白いことやってよ」  わたしの提案に、鳴亜梨ちゃんは顎に手を当てながら言った。 「いいけど……小道具の使用はあり?」 「問題ないよ」 「そっか、ならいけそう」  鳴亜梨ちゃんは早速、四次元ポーチの中に手を突っこんだ。  そして取り出したのは、ルーペだった。  鳴亜梨ちゃんはぎゅっと片目を瞑ると、じっとレンズを覗きこんだ。 「…………」 「…………」 「うーん、これじゃないかも」  言って、ルーペをポーチに戻す。  代わりに、鳴亜梨ちゃんは別のものを取り出してみせた。  指先でつまんだ、小さなそれは。  そう――おはじきだ。  頭上に掲げるようにして、ためつ眇めつおはじきを眺める鳴亜梨ちゃん。 「いけそう?」 「でも、おはじきは違うよね」  言って、おはじきを指で弾き飛ばす。  続いて取り出したのは―― 「うん、これこれ」  食べるラー油だった。 「早く! 早く見せて、面白いやつ!」  わくわくが止まらない。 「ま、見ててよ。すごいから」  自信満々に言って、ビンのフタを開けようとする。が、 「あれ……」 「…………」 「開かない……」 「ねぇ、早くしてよ」 「だって、開かないし……」 「ねぇ……」  あんまりわたしをイライラさせないでほしい。  思わず手が出そうになった、そのとき。 「あ、わたしビンのフタ開けるの得意ですよ」  麻由ちゃんが言った。麻由ちゃんはわたしたちより三つ下、小学二年生の女の子だ。 「そ? じゃお願い」  鳴亜梨ちゃんが麻由ちゃんへ、食べるラー油のビンを渡す。 「じゃあ開けますね……んんんっ!」 「開きそう?」 「待ってください、今開けますから……ん〜〜〜〜っ!」  なんか全然ダメそうだ。麻由ちゃんに期待したのがそもそもの間違いだった。 「ほかになんかないの、小道具」 「あるにはあるけど、やっぱりコレじゃないと。ビンのフタさえ開けば、かなり面白いことができるんだけど……」 「じゃあさ、繋ぎでいいからなんかやってよ」 「えっ?」 「ビンのフタが開くまでの、繋ぎでいいから。やってよ」 「う〜ん、でもそれだと、“そこそこ面白い”くらいになっちゃうけど……」 「いいよ、繋ぎだから」 「柚花がそこまで言うなら、やってみるけど……」 「酒本鳴亜梨さんで、“面白いこと”! 3、2、1、どうぞ!」  鳴亜梨ちゃんは、未だビンのフタと格闘する麻由ちゃんの髪の毛を、口に含んだ。 「“食べるマーユ”」  わたしは腕組みをして考えこむ。 「メガネ、今の何点?」  今回審査員を務めるメガネに訊いてみた。 「話にならないな。意味不明な点が多すぎる。特に“マーユ”の部分だ。“ラー油”とかけたかったのかもしれないが、そもそも、そこの子どもの名前はマヨだったはずだ。だから当然、“食べるマーユ”ではなく“食べるマーヨ”とすべきだった」 「あのっ、麻由で合ってますっ……」  麻由ちゃんがビンのフタと格闘しながら、メガネに口ごたえする。 「それで、何点?」 「そうだな……せいぜい90点といったところだろう」 「なるほどね」  さすがはメガネ、妥当な採点だ。 「だが僕なら、間違いなく100点を叩き出せる」  それはそうだろう。審査員がメガネである限り。 「僕ならこうする」  言ってメガネは、未だ麻由ちゃんの髪を咥えている鳴亜梨ちゃんへ向けて、手のひらを差し出した。 「それを貸せ」 「ふぉれって?」 「その小道具だ」  なるほど。わたしはピンときた。 「まゆまゆのこと?」 「たしか、小道具の使用は公式に認められている――そうだったな、若月?」  わたしはうなずいた。 「なるほどね、そういうこと」 「えっ、え? なんですかっ?」  鳴亜梨ちゃんは納得したようにうなずくと、戸惑う麻由ちゃんの髪を引っ張って、メガネに引き渡した。 「では始めよう。若月、カウントダウンを頼む」 「メガネの“面白いこと”まで、3、2、1――」 「おい子ども、なにか一発芸をやれ」 「えっ? わたしですか?」 「ほかに誰がいる」 「でもわたし、今ビンのフタを開けるのに忙しくて……」 「口ごたえするな」  つまりメガネの思惑は、こうだ。 “小道具”である麻由ちゃんが芸に成功すれば、それは所有者であるメガネの手柄となる。  逆に失敗すれば、麻由ちゃんが恥をかいて終わりだ。ぜんぶ麻由ちゃんのせいにできる。  さすがはメガネ、女子会の頭脳と呼ばれるだけのことはある。 「えっと……」  メガネの提案に、麻由ちゃんはきょろきょろと周囲に視線を走らせて、最終的にわたしを見た。 「小道具、使ってもいい?」 「もちろん」 「よかったぁ……」  麻由ちゃんは安心したような笑みを浮かべると、鳴亜梨ちゃんに顔を向ける。 「めあちゃん、お願い」 「あたし?」 「うん。だってめあちゃん、面白いし」  なるほど。どうやら、鳴亜梨ちゃんを小道具として使うようだ。 「いいけど、ビンのフタが開かないと、クオリティはどうしても下がっちゃうだろうね」 「あっ! 開いたよ!」 「なるほどね」  鳴亜梨ちゃんは受け取った食べるラー油を、じっと見つめる。  そしておもむろに、開いたフタの上に手を置いた。 「それじゃあラスト、鳴亜梨ちゃんの最高に面白い芸まで、3、2、1――どうぞ!」 「“メアリンピック正式種目、ビンのフタ閉め”」  ぼそりと言って、鳴亜梨ちゃんはキュッキュッキュッとフタを閉めていく……。 「メガネ、点数は?」 「文句なしの、100点だ。そう言う若月は、何点だと思う?」 「もちろん――」  わたしは言った。 「100点」  あー面白かった。 ※2013年に書いたものなので、ネタが古い部分もありますがご容赦ください。

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カクヨム
カクヨム2023/03/01
  • 現在の作品りある女子会。〜ちょっと男子、真面目にやってよね!〜