あらすじ
惑星航路が確立した現代、主星オリオンを中心とした五つの恒星系にわたって人類は繁栄していた。
過去の戦争の記憶も、もはや人々から忘れさられたこの時代、その恒星系のなかでも比較的時代の古いここ、辺境の惑星ロンデニオンのポートでサツキは警備に就いていた。
宇宙空間を旅するには、現在二通りの方法がある。一つには太古から続く通常空間を移動する方法。これには主に光子を推進力に使ったもので、光速の約99%で移動することが可能となっている。もう一つがゼロ空間を通る方法。この理論が完成されて初めて惑星航路というものが成り立ったといっていい。
ブレーンワールドにおいて、そのブレーンが閉じているシャボン玉の表面の膜のようなものだとした場合にその内側にある世界、低空間と名付けられたその状態に於いて、距離というものはまったく違った尺度をもって表れることになる。そして真の真空というべきエネルギーが完全にゼロになった状態では、従来の距離という感覚は意味を持たなくなる。
この低空間──大雑把にゼロ空間と呼ばれることが多いのだが──を通過することに依って光速度を越える移動が可能になったのだった。
しかし、従来の通常空間から脱出する為には、光速を突破するということが不可欠であった。勿論物質がそのままの状態で光速を突破することは不可能であるとともに、ゼロ空間に突入した時点で、すべての通常物質は崩壊することになる。エネルギー値の違いから存在不可能になる為に。
それを解決したのがタキオン発生機と位相コントローラーによる疑似フィールドの開発であった。
これによりゼロ空間航行が可能になり、惑星航路が整備されることとなったのだが、いまだ現在ではゼロ空間からの任意の位相転移の技術はなく、もっぱら通常空間に設置したアンカーとよばれる位転装置なくしては通常空間に復帰することは不可能だった。このアンカーを設置した場所のことをポートといい、いわば惑星国家の玄関口としての機能をはたしていた。