あらすじ
米村誠三郎は鳥取藩お抱え絵師、小畑稲升の弟子である。文久三年(一八六三年)八月に京で起きて鳥取の地に激震が走った本圀寺事件の後、御用絵師を目指す誠三郎は画技が伸び悩んだままで心を乱していた。大事件を起こした尊攘派の一人で、藩屈指の剣士である詫間樊六は竹馬の友であり、その処遇が気掛かりでもあった。
事件から三月が過ぎた初冬のある日、写生をしようと稲葉山へ野歩きに出ていた誠三郎は時雨空の下、若い娘が倒れているのを見つける。その娘は金拵えの太刀を帯びて袴をつけるという勇ましい出で立ちであった。その風変わりな姿を是非とも絵に描きたいと、誠三郎は気を失っている娘を背負って屋敷へ連れ帰ろうとするのだったが……。
幕末における鳥取藩政下、水戸出身の藩主の下で若手尊皇派が庇護される形となっていた。また鳥取では、家筋を限定せず実力のある優れた画工が御用絵師として藩に召しだされる伝統があった。
その因幡の地で激動する時勢のうねりに翻弄されながら、歩むべき新たな道を模索して生きる若者たちの魂の交流を描いた小説です。