あらすじ
日向秋久は近道をしようと旧校舎の脇を通り、喫煙所へと差し掛かる。人気のないそこはいつも錆びた灰皿だけがぼんやりと佇んでいるだけであったが、今日は様子が違っていた。誰もいないと思っていた其処には、細い体に黒を纏った彼がいた。
日向の通う文学部には、芸能人なんかよりもずっと有名な男がいた。誰であるのかは明らかにされていないが、どの授業にも出ているのだと噂されている。
煙草を挟んだ指は女性的なまでに細く、白く、銀杏色を透かした陽射しが真っ直ぐに染み込んでいた。伏せた睫毛の長さと、白い肌を飾り付ける銀色のアクセサリーが不可思議な彼には酷く似合っていて、日向は視線を外せなかった。
須賀千秋と名乗った彼と言葉を交わし、ひっそりと隣り合っている時間が幸せだった。彼に笑っていてほしい、彼の隣にいたい。その気持ちだけを胸に告げた言葉は、彼に受け入れられることはなかった。
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怖いものは怖い。だけど君となら歩いていけるかもしれない。