あらすじ
「ねえ琥珀、はじめの狸は何故ドングリを埋めたの?」
ハチドリが聞いた。
『ホシがそうしろと言ったからだ』と琥珀が応えると、ハチドリはポカンとして暫く何も言えなかった。
「じゃあ、狸がアンバールドを創ったの?」
『タヌキとはいわゆる量子のことだ。ただそこに揺蕩い、あらゆる営みに干渉する。そうして様々な波長の鳴動が生まれ空気を伝わり、オトとなって耳に馴染む。そうしてまた、あらゆる営みに伝播してゆくものだ』
ハチドリは不安になった。
解らないということが、これほども恐ろしいものだとは知らなかったからだ。
「じゃあさ、アンバールドって異世界なの?」
ハチドリがオズオズと尋ねると、琥珀は自らの存在を掻き消すように気配を静めた。
それを眺めている間に蒼かった葉が太陽の色に染まり、ようやく諦めのついたハチドリは、手の平に腰掛けたその黄金の石をカバンに仕舞おうとした。
『異世界とは "自分のセカイ" のこと。誰の内にもあるが、その本質はそう易々とハダカにできるものではない。だからこそ尊い』
唐突にくっきりとした声がして、驚いたハチドリの手から琥珀が滑り落ちる。
『アンバールドも数あるセカイのうちの一つ。ソラの綺羅星ほどありふれたものだ』
『タヌキはただ果実の甘い汁を啜り、タネを埋めるだけ』
琥珀の声が地面に吸い込まれていくので、ハチドリも慌てて地に伏せ、落ちた石に耳を傾けた。
けれどもその声が本当に聞こえたものだったのか、頭の中に浮かんだ空想だったのか、ハチドリはよく分からなくなってしまった。
チラつき始めた雪の一粒が額に乗って融ける間、ハチドリは琥珀と出会った時に言われたことを思い出していた。
『オマエにもいずれ解る時が来る。己が知り得たものを伝えることこそミームの務め。それがワタシの存在意義だ』
ハチドリはその時初めて自分の役割を知らないことを奇妙に感じ、自分の存在がひどく不確かなものに思えた。
今度こそ本当に、ハチドリは琥珀をカバンに仕舞い込んだ。
この道がどこまで続いているのかは計り知れないけれど、まだ旅の途上であることだけは確かだ。
To be continued......