あらすじ
1000年以上の時を生きた天狐のイナは、人間が大好きである。
たぐいまれなる神通力と千里眼を駆使しては、人の世の太平を見守り、時には目をかけた人間に知恵を授けるなどして、悠々と人の世を渡り歩いて生きている。
そんなイナの趣味は、寂しそうな顔をしている幼い人間を”あやして”やることだ。
イナは善なる狐である。神の太鼓判も貰っており、国内のあらゆる神域に特別待遇で出入りできるほどだ。
しかして、人間の繊細な機微に関しては、彼の4本のしっぽよりもフワッフワな観念の持ち主でもあった。
さて、そんなイナは知る由もなかった。
彼が寂しげにしている幼子を少しばかりの間あやして可愛がってやる趣味が、人の世では、『神隠し』として問題視されていることを。
彼に”可愛がられた”人間たちの純真な心が、彼の慈善心によって、どんなにか歪められて、ふたたび人の世に放逐されているのかを。
ある日、そんなイナのもとに、人の身にしては随分と神力を蓄えた様子の、雅やかで見目麗しい青年、矢田玄羽が現れる。
イナはそんな彼を戸惑いつつも受け入れたが、彼はどこか含みのある笑顔で言い放った。
「俺は生贄としてここに来た。今までのオイタの報いを受けてもらおうか、おきつねさま?」
愛玩動物としてこよなく可愛がっていた人間から、思わぬ逆襲を受けることとなったイナの明日やいかに――――!?