あらすじ
※結末までのあらすじです。ネタバレしたくない読者さまは読まないでください。
あの島に近づいてはいけない——
人魚伝説の残る地で、祭りの日、妹の杏樹が行方不明になった。聖王は杏樹を探すため、母方の里へむかう。捜索の途中、蛍という不思議な美少女に出会う。ひとめで惹かれるが、杏樹の行方は知れない。
以前の行動から、杏樹が人魚伝説を調べていたとわかる。神社へ行った聖王は奇妙な集団に遭遇した。お供えの生魚を奪いあうゾンビのような集団だ。もしや、あれが人魚なのか?
青年団団長の芦原によれば、杏樹は自分で禁域へ行ったらしい。決意して禁域へ赴く聖王。そこで交通事故を起こした四人の大学生、龍夜、透、心、明香と知りあう。彼らの友人のふりをして禁域の集落に潜入した。
親切にもてなしてくれた住民だが、しだいに本性を表し捕縛しようとしてくる。一人だけ逃げだした聖王は迷路のような集落を逃げまどう。金魚模様の浴衣の少年少女やバッタを食う不気味な男を目撃する。住人の老婆から、それが人魚だと聞かされる。人魚とは海で死んだ者、また、ニエになったあと戻ってきた死体をさすのだと。この地域では古来より、溺死者が家に戻ってきたという。そして、そのときの姿のまま数百年をすごす。生肉を食い、しだいに人としての記憶を失っていく彼らが、新たな犠牲者をつれていかないようにと、ニエをさしだしているのだ。ただし、よそ者をさらって家族の代わりにすることもある。それがニエ代。
妹がニエ代にされたと考えた聖王は、杏樹のスマホが落ちている地点へむかう。そこは漁業組合が所有する冷凍室だった。ぐうぜん、心がそこへつれこまれるところに行き当たり、侵入する聖王。なかには人間の死体がぶらさがり、冷凍保存されていた。そこに杏樹はいなかった。逃げだそうとするものの、心の裏切りにあい住民に捕まってしまう。
だが、心は殺され(この時点で龍夜をのぞき大学生は全員死亡。龍夜はニエ代として監禁)聖王も足を切断されそうになる。そこへ芦原から電話がかかってきて、この地域の親類だから特別に大金を払って逃がしてもらえると交渉が成立する。杏樹もすでに見つかり返してもらう話がついた。
しかし、交渉の場にいた少女は杏樹ではなかった。母はそれも聖王の妹で、杏樹は子どものころに死んだと告げる。じつは七歳のとき、聖王は一度、禁域へ入りこんだ。そのときついてきた杏樹が死んだのだと。
目の前で妹が死んだショックで聖王は記憶障害を起こし、当時赤ん坊だったもう一人の妹蘭樹を杏樹だと思いこんでいた。蘭樹のスマホからそれを理解した聖王の記憶の封印がとけていく。聖王は自ら禁域へ行ったのではない。大人につれだされ、ニエ代にされたのだ。杏樹はそのとき聖王についてきてしまい、なんらかの事故にあった。真相をさぐるため、かつて入れられた禁域の祠へむかう。
禁足地の祠に到着した聖王は、あの日、そこで逃げまどい、杏樹が海に落ちて溺死したことを思いだす。母がニエに選ばれた自分の代わりに、生まれてきた子どもをニエ代にしたのだ。聖王がなるはずだったが、死んだ杏樹を代理にし、聖王をつれ帰った。そう考えて落胆していると、父から電話がかかってくる。車で迎えにきてもらうのを待つあいだ、廃屋で見つけた手紙を読む。そこには衝撃の事実が書かれていた。高校時代の母から父に宛てた手紙だ。それによれば、父は禁域の出身で、ニエはもともと父だった。自分を祠に閉じこめ、杏樹を死なせたのは父だと思いだす。迎えにきた父と夜の岩場で対峙する。だが、父は人魚に襲われ食われた。聖王も海へ落下。蛍に助けられる。
気がつけば海底洞窟にいた。そこで青白く光る不思議な物体を見る。蛍によれば、それが人魚の素。人間を依代にして寄生する新種の粘菌だ。つまり、人魚とはこの粘菌に寄生され、思考をあやつられた者たちだ。粘菌の特性により、依代は不老長寿になる。特別に適合性の高い個体は数千年も生きる。
人魚の正体に愕然としつつも外へ出ると、待っていたのは梶原という研究員だった。粘菌の能力を利用するために研究しているのだ。研究所へつれていかれ、あやうく粘菌を飲まされかける。だが、被験体の人魚たちがあばれだし、そのすきに蛍をつれて逃げだす。いっしょに行こうという聖王に蛍は首をふる。そこへ追ってきた梶原によって、蛍の正体が杏樹だと知らされる。ショックを隠せない聖王。なぜなら、二人はすでに愛しあっていたから……。
銃をつきつける梶原を止めるため、自分だけ残る杏樹。火の手に追われ、聖王は泣きながら逃げる。
一年後——
聖王は普通に暮らしていた。だが、自身の変化に気づいていた。子どものころニエに出されたとき、自分がすでに人魚になっていることを。杏樹と自分だけが数千年の時を生きる適合者だ。いつか必ず彼女を迎えに行く。そう決意を秘めて。