あらすじ
水守村《みなかみむら》の北の山には、古くから龍神が住んでいる。
その怒りを買うと、村を挟むように流れる神威川《かむいがわ》が氾濫し、水守村は甚大な被害に遭う。
村人達はこの事態を避ける為、龍神に御供を捧げるようになった。
今代の御供となるのは、千歳《ちとせ》という青年だ。
清廉潔白を絵に描いたような、強い神気を持つ神子である。
彼ならば見事に龍神を鎮めてくれるだろうと、村の誰もが期待した。
千歳自身、自らの御役目を立派に果たすつもりでいた──が。
いざ御供にならんと龍神の社に参じた千歳を見て、美男子姿の龍神は一言。
「いらん」
なんと理由も告げずに千歳の事を返品し、代わりの神子を寄越せと言う。
これに村は震撼した。
そして千歳は、龍神に毛嫌いされた役立たずの神子として、村を追い出されてしまう。
──それから二年。
村人は未だ、龍神へ御供を捧げる事ができずにいた。
何故なら御供を務められる、神子の資質を持つ者が、村には千歳しか居なかった為だ。
千歳が返品されたとなると、村の外から神子を探してくるしかないが、これが難航しているのである。
そんな中、千歳は山の麓に小屋を建てて暮らしていた。
村人に蔑まれ、まともな家も職もなく、野生のように過ごす内、見た目も中身も荒んでしまった。
だがそれでも、御供の務めを果たせなかった事に責任を感じ、密かに村を見守りながら過ごしている。
そんなある日、村を長雨が襲った。
いつまでも止まない雨で、川の水位はみるみる内に上がって行く。
これはもしや、いつまでも御供を差し出せない事に対する龍神の催促だろうか。
しかしやはり、新しい神子なんてそう簡単には見つからない。
このままでは、川が氾濫してしまう……
村の危機を見兼ねた千歳は意を決し、もう一度社へ赴いた。
そして自らを御供とするよう、龍神への直談判を試みる。
だが龍神はまたも理由も告げずに拒絶した。
そうして千歳を社から追い出そうとするのだが……叶わなかった。
永らく御供を得ていない龍神は弱り切り、力を使う事ができないのだ。
力尽くで追い出される事がないのならと、千歳は強硬手段に出た。
社に居座り、側仕えしようと決意したのだ。
と、本来御供の御役目とは「龍神とまぐわい力の源となる事」なのだが、千歳はそれを「側仕えによって龍神を支える事」だと勘違いしていた。
龍神が御供と認めていまいが、とにかく自分が仕える事で、きっと何かは変わるはずだと意気込んで。
こうして山の社の中、龍神と千歳の生活が始まった。
刺々しい態度を取られても、山暮らしで図太くなった千歳は動じない。
むしろ龍神相手に怯まずに物を言い、世話を焼く。
そんな千歳を忌々しく思っていた龍神だが。
実のところ、龍神が千歳を御供としなかったのは、千歳を毛嫌いしての事ではなかった。
むしろ千歳に強く惹かれているからこそ、手を出せない事情があったのだ──……