あらすじ

クレア・イエローは、国の養護施設で育てられた。 同時期に生まれた戦災孤児の5万分の1でしかなかったから、大人たちは行政がパンクしかかるほどの児童を「管理対象」として扱いはしても「慈しみ」を与える余裕がなかった。 結果、番号で呼ばれたほうがしっくりくるような10年の果てに義務教育が終わると、すぐに軍の学校に放り込まれた。 この時期、国費で後期中等教育を受けられるのは軍関連しか残っていなかった。 長期にわたる戦後不況で失業率は過去最悪を更新し続け、福祉予算は破綻しかかっていた。 成績は優等だったが生活費と学費をチャラにする条件は軍への任官だけで、ここでも選択肢などなかった。 そして彼女の結婚である。 人生にある種、諦観していた彼女は軍による結婚の斡旋という強制にすら無感動になっていた。 ただ、結果的にシャーマン空軍大尉の、このすこしすねたところのある娘の気を引くにあたって自分の弟をダシにするという作戦は図に当たったといえる。 なにせ猫すら飼ったことのない娘が初めて接する「幼い生き物」である。 眺めているだけで飽きない。 こちらの一挙一投足にまで反応する。 かと思えばこちらの予想もしない行動を取る。 声がかわいい。 だっこするとあたたかい。 しかも自分になつき、甘え、信頼しきっているのである。 婚約者の弟は会えば必ず「生まれて初めて」を娘に経験させた。 それは彼女の人生の薄っぺらなことの裏返し。 それでも彼女は楽しいし幸せだと思っていた。 人のために笑い、怒り、甘えさせ、泣き、可愛がり、嫉妬さえした。 問題があったとすれば、それが世界でただ一人、10才にもならない少年にだけ、向けられていたことか。 ただ彼は楽観していた。 自分の弟といるときはあれだけ優しく笑える女性なのである。 自分の弟に嫉妬しても仕方がない。 ならば時間をかけてその笑顔を自分に向けさせればいい。 なんとも頼もしいポジティブシンキングの持ち主であったが残念なことに彼は結婚直前に事故で他界している。 彼が自分の葬儀で婚約者が泣かなかったことをどう思っていたか。 確かめる術はない。 かくして。 どこか心のこわれた娘と。 すぐ心がこわれてもおかしくない年頃の男の子が残された。 ふたりとも残されたとは思っていなかったけど。

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小説を読もう2015/09/05
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