あらすじ
大阪中ノ島の美術学校を卒業した青井津根は故郷の徳島には帰らず自分が描きたい絵画とは何かという課題と向き合いながら母の形見の三面鏡に語り掛ける日々を小さな木造のアパートで過ごしていた。しかし自分の絵画がなかなか見つからず、やがて孤独感を強めていった。そんなある日彼は街である女性に会った。彼女は財閥令嬢であり、津根は一目見て彼女が美しい女性であると分かった。その晩、彼は自室に籠り自画像を描こうと三面鏡を開くと、そこに街で出会ったあの美しい女性が映っているのを見た。驚いて三面鏡を閉じた津根の心はその日から狂いだし、そしてのぞき見するという不道徳と煩悶しながら、ついに彼は自分が描きたい作品とは何かという命題を見つけ、それを作品にする。そしてその作品が出来上がった時、彼は彼女を訪れ彼女をのぞき見したことを謝罪するが、それが叶わないことになっていることを知る。この作品はそんな孤独な画家の心の内を見つめる小説である。