あらすじ
――月は綺麗だね。
彼がその言葉を口にした瞬間、ドキッとして、あたしは何も言葉が出てこなかった。
『どうしたの? ぼーっとして』
「え、あ、ううん。その、あなたのこと想ってて……って、いや、あはは、あたし、何言ってるんだろ、あはは……」
『ふふっ、想っているなんて、まるで遠くにいるみたいだね。目の前にいるのに』
「あはは、それはそうだけど……でも、やっぱり遠いよ」
あたしはそう言って、モニターをそっと撫でた。彼の顔に、その唇に指を伸ばす。
彼も手を伸ばし、あたしに触れようとした。でも、感じられたのはモニターの蛍光灯が作り出す体温に似た生ぬるさと、滑りの悪い手触りだけだった。
『ああ、確かにそうだね……』
「うん……でも」
でも? 何を言おうとしているんだろう、あたし……。いつか会えるよ、かな。でも、本当に? 本当にいつか会える? そう思ってる? ……それに、彼はあたしに会いたいと思ってくれているのかな。きっとそう訊けば、彼は言ってくれるだろう。いつも通りに、あたしが欲しい安全な言葉を。
それで、二人はまた無難なやり取りを続けて、通信を終えるんだ。いつものように……。