あらすじ
緩やかに朽ちていく工場の廃墟、折れた鉄骨、赤錆、夏の喧騒。
絵の具の鯨と啼きやまないヴァイオリンの弦。
「僕はここで絵を描いてるんだ。なんの意味もない絵を描いている」
緑と赤錆と画材のにおいを肺に詰めて浅く呼吸をしていた、短い夏。
彼は意味のない絵を描き続け、俺は意味のない音を奏でた。時を浪費する。命をもてあます。なまえを教えることもなく、誰でもないように振る舞って。
「僕らは、ふだの提げられた歯車のなかにいるんだよ。廻り続ける。一生を掛けて。死に絶えるまで廻り続ける。そのことに意味なんて言葉を宛がえてみせる、人生の意味だなんて綺麗な言葉を」
どうにもならない生きづらさを感じていたふたりが、ほんのひと時だけ歯車から逃げだして、おんなじところに身を寄せただけの。
「僕はここにいるつもりだよ。夏が終わるまで」
それでも、あの夏。
俺とあんたは確かに。
――――息をしていた。
「君を歓迎する」