あらすじ
――あ、死んだ……。
――え、死んだのか……?
――ああ、おれは死んだ……。
地面にへたり込む彼は、朝起きたばかりのような脳でそう思った。ぼーっとしてはいるが、自分が死んだ瞬間の記憶、こちらに迫りくる車が網膜に張り付き、頭から離れない。この体が、つい先ほどまでいた現世と未だ粘液性を帯びた糸で繋がっているような感覚がしていた。
だが、もうその糸は断たれている。そう、自分は死んだのだ……。
彼は辺りを見回し、そして少しばかり安堵した。この景色。どうやらここは天国のようだ。彼の周りには同じように辺りを見回す人々がいた。そのうちの何人かと目が合い、軽く会釈する。それもまた、彼の心を落ち着かせた。
しかし、自分が天国に来られるとは思っていなかった……とまでは言わないが、確信はなかった。警察の世話になったことはないが、自分は善良な人間だったと胸を張って言えるかと問われれば、顔を背けただろう。もっとも、多くの人間がそうだろう。多かれ少なかれ誰しも悪いことはしたはずだ。虫などを殺したことがあるだろうし、嘘もつく。
しかし、こうしてここにいるということは、そういった些細なことは判断基準にはならないらしい。地獄行きは免れたのだ。
彼はふぅと息をつき、立ち上がろうとした。その時、頭上に影が差した。