あらすじ
「どういうことだい……? もう、ここには来られないって」
おれは彼女に手を伸ばした。しかし、おれたちの間にあるコーヒーカップに指が当たり、ガチャッと音を立て、彼女が身を強張らせた。
「あ、ああ、この店が嫌なんだね? 確かに、最近汚くなったなぁ。いや、ははは、毎日来ているとわからないものだね。匂いもあれかな、ははは……」
おれは自分の声が震えていることに気づき、情けない気持ちになった。
「ごめんなさい……」
「あ、こうしよう。次からはエレベーターの前で会うんだ。そうすれば君も――」
「ごめんなさい……やっぱり、あなたとは……ごめんなさいっ」
彼女はそう言うと同時に席を立った。
「なあ、待っ――」
「ははははははっ!」
「……おい」
おれは隣の席との間にある仕切りに腕を乗せ、友人の松田を睨んだ。
松田はコーヒーカップに口をつけながら、おれを見上げた。額に皺が寄り、眉が上がったそのいやらしい顔が腹立たしい。