あらすじ
12月25日(土)
寒かった。白い砂のような美しい塊が宙を舞う。
クリスマスツリーがまだ光っていた。
ここで彼女の言葉を思い出す。
「愛のカタチが規則正しい、型にはまったものじゃなくても。夏樹は愛してくれる。」
彼女は何を思い浮かべながら口を動かしたのだろう。
唇の割れ目が冷たい風にあたってヒリヒリと痺れた。
そろそろ動かないと後ろのカップルの写真撮影に入り込んでしまう。
未来の彼らの自宅の玄関に、自分の姿が映った写真立てを飾られたくはない。
駅のホームに向かって歩いていくと、明るいイルミネーションが続いていた。
スペシャルベリーケーキという商品名が目に入る。
小さい子供が母親と思しき人物にオネダリをしていた。
そんな姿を横目に、無い未来を想像する。
3人か4人。いや、それ以上の人数で暖かく染ったお茶を飲みながら、ゆったりとクリスマスの日々を過ごす。
そこには、彼女の姿が映っていた。
彼女の顔は、黒くクレヨンのような質感で塗りつぶされていた。
駅で電車を待つ。スマホを起動すると、充電が残りわずかだった。
素早く彼女とのトーク履歴を全て消す。
電車のライトが見えてきた。
感動的なエンドロールが存在しなくとも。
黒い幕に白い名が刻まれなくとも。
私の物語はここで終電を迎えたことだけは証明出来るようになるだろう。
目の前の電車を眺めた。
光が強かった。