あらすじ
それは、突然のことだった。少なくともエミリアには、そう思えた。
「手、随分と荒れてるね。ちゃんとケアしてる?」
ある夕食の日。夫のアンガスが、エミリアの手をじっと見ていたかと思うと、そんなことを口にした。心配そうな声音ではなく、不快そうに眉を歪めていたので、エミリアは数秒、固まってしまった。
「えと……そう、ね。家事は水仕事も多いし、どうしたって荒れてしまうから。気をつけないといけないわね」
「なんだいそれ、言い訳? 女としての自覚、少し足りないんじゃない?」
エミリアは目を見張った。こんな嫌味なことを面と向かってアンガスに言われたのははじめてだったから。
どうしたらいいのかわからず、ただ哀しくて、エミリアは、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
それがいけなかったのか。アンガスの嫌味や小言は、日を追うごとに増していった。
「化粧してるの? いくらここが家だからって、ぼくがいること忘れてない?」
「お弁当、手抜きすぎじゃない? あまりに貧相で、みんなの前で食べられなかったよ」
「髪も肌も艶がないし、きみ、いくつ? まだ二十歳前だよね?」
などなど。
あまりに哀しく、腹が立ったので「わたしなりに頑張っているのに、どうしてそんな酷いこと言うの?」と、反論したエミリアに、アンガスは。
「ぼくを愛しているなら、もっと頑張れるはずだろ?」
と、呆れたように言い捨てた。