あらすじ
「……ええ……ああ……は、はい! お、おーい! みんな、ちょっと手を止めてくれるかー!」
そう言ったあと、咳をするほどの大声を出した上司を見て、これまで寝起きのような浮遊感、あるいはじゃれ合う動物の幼子を眺めているときのような幸福感、夢うつつであった彼は目を見開き、そして口を閉じていられなかった。
人間の、彼に備わっている危機察知能力が警報を鳴らした、というよりは、少し前からこのオフィスの出入り口で上司と何か話していた体格が良い黒いスーツの男たちの視線が彼の方を向いていたことから察したといったほうが正しいだろうか。
なんにせよ、彼は今すぐにここから逃げ出すことよりも勘違い、杞憂、これより上司が口にする名が自分以外のものであってほしいと祈ることを選んだ。いや、選ぶしかなかった。
「いやーおめでとう! みんな拍手拍手! ん、おーい! ははは、感無量といったところですなぁ、はははははは!」