あらすじ
佐伯俊(さえきしゅん)は教室の隅が定位置の高校二年生。ある夏の日、保健室で、人気者の橋近(はしちか)が男性同士の性行為を映した動画を見ていたのを目撃する。俊は驚くが拒絶はせず、自らの偏見の吐露と、その場しのぎで動画を貶めることをしなかった橋近の誠実さへの寄り添いを示す。橋近は感涙し、俊を「異性を好きになるのが前提の世界から抜け出させてくれる、唯一の人」だとして仲良くなりたいと申し出る。俊は頷いたが、実は自身にも、誰にも言っていない秘密があった。
※2020年発行の同人アンソロジー(主催:柳ヶ瀬舞様)「LGBTQA創作アンソロジー Over the Rainbow」に寄稿した作品を大幅に改稿したものです。
===以下、新人賞応募用のあらすじです。結末まで書かれていますのでご注意ください。===
佐伯俊(さえきしゅん)は教室の隅が定位置の高校二年生。ある夏の日、保健室で、人気者の橋近(はしちか)が男性同士の性行為を映した動画を見ていたのを目撃する。俊は驚くが拒絶はせず、自らの偏見の吐露と、その場しのぎで動画を貶めることをしなかった橋近の誠実さへの寄り添いを示す。橋近は感涙し、俊を「異性を好きになるのが前提の世界から抜け出させてくれる、唯一の人」だとして仲良くなりたいと申し出る。俊は頷いたが、実は自身にも、誰にも言っていない秘密があった。
それから二人は、音楽が好きという共通点もあり距離を縮めていく。橋近は明るく社交的だが、世界からの疎外感と孤独は常にあり、俊は垣間見えるそれに真摯に応える。しかしその度に、隠し事をしている罪悪感が胸を刺していた。
体育の授業、橋近の軽音部活動、文化祭ライブなどを経て、友情は確実に深まっていく。「ホモ」に対し率先して「キモい」と言った橋近の自傷に悲しみと悔しさを覚えた日もあった。それでも懸命に前向きでいようとする橋近に対して俊は自らも誠実であろうとし、秘密の告白を決意する。
だが二学期の終業式前日、雪のなか共にした帰路で、不意に橋近に「この先、俺に好かれたら嫌だよな」と切り出される。俊はもっと早く告白しなかったのを後悔しながら、自分は恋愛感情も性欲も持ったことがないのだと打ち明ける。橋近にとって普通であり大事である「人を好きになる」気持ちが理解できない自分は橋近の唯一の人でいてはいけなかったと泣きながら謝り、友情の終わりを予感したそのとき、俊は抱き締められる。橋近は自分こそが俊に普通を押し付けていたと謝罪し、「俺は今の佐伯が好きだ。人を好きになる理由は、恋愛感情だけじゃなくていいはずだ」と言い切った。二人は体温を分かち合いながら、分かり合った。
約一年後、卒業式で二人は特段言葉を交わさなかった。この先も共に生きていく予感があったからであった。