あらすじ
世の中、不思議なことがいっぱいある。謎に包まれた秘密結社、無謀の神、山の怪。其々に恐怖が有り、其々の魅力がある。
これはそんな名状し難き運命に絡め取られてしまった人々の物語。
三流雑誌の高校生記者、暴力好きなJK三人組、うらぶれたボクサー、イケイケな不良達…etc
それでも、事件に関わった人間はこんな風に考えていると思う。おしなべて、一様に。
『ひょっとすると、可愛い顔をして大人しくすべきだったのかもしれない』
[画面に映った黄色いウィンドブレイカーの少女は語った。]
というのも、今回の事件に確固たる勝利なんて無かった。明確な勝敗は存在せず、業を追うべき犯人も、それに鉄槌を下すべき正義の執行者も存在しえなかった。誰もが例外なく下らない下手人であり、誰一人として目的を完遂出来やしなかったから。
チンケな目的の為に、大きな悪を為す。
人は須くそうする。そういう風に出来ている。多少のバラつきがあるだけで例外はナシ。
だからこそ、私はそれを利用した。それこそ、チンケな目的の為に。『ただ、面白くあれ』というね。思考という海の中に、浮き輪の様にプカリと上がってきた命題を達成してやったわけだ。繰り返すけど、この事件に関わった人間に勝者はいない。ただ、虚しい結果があるだけ。
[ウィンドブレーカーの少女は分厚い聖書を取り出す。壇上で神父がそうする様に大仰にページをまくって見せる。]
ほら、こんな聖書にこういう一節があるでしょう?
『エチオピア人が自らの皮膚を変える事が出来ようか?豹はその体躯の斑点を消す事が出来ようか?もしそれが出来るならば、悪に慣れた汝らも、善を成し得る』
つまりね、何も変わりはしないということ。病に侵された羊の群れは敬虔なる羊飼いの手によって須く谷底へ落とされなければならない。そういうこと。
ええと、何だって?『その場合、羊飼いこそが勝者ではないのか』って?『勝利した人間はいないってのに矛盾してるんじゃないか』って?
さあどうかしら?だって、羊飼いがヒトであるとは誰も言ってはいない。羊飼いは羊達の生み出した虚像なのかもしれないし、ただ坂を転げ落ちる藁人形かもしれない。若しくは、全てを創りたもうた神そのものかも?
[その言葉を最後に、少女の姿は暗いディスプレイへと沈んだ。有無を言わせず、笑みを浮かべたまま、姿を消した。その配信を目にしたものは限り無く少なかったが、彼女の笑みは、人間離れしたその快笑は、目にしたもの全ての目に強く焼き付いた]