あらすじ
霧島砂羽(きりしまさわ)には、母がいない。「お母さんは、命がけで砂羽を生んだんだ」と繰り返す父の言葉を、砂羽は疑いもしなかった。砂羽の母親代わりは、七歳年上の兄、鱗太だ。中学校で苛められた砂羽は、浴室で手首を切って自殺をはかるも、未遂に終わる。傷心の砂羽に、ずっと優しかった鱗太は、家を出て一人暮らしをすると告げる。
兄を繋ぎとめるため、砂羽は、再び、手首を切る。それでも、兄は、家を出て行った。砂羽は、兄の胸に秘める深い心情に、まるで気付けなかった。
自信もなく、将来に夢も希望も見いだせない砂羽は、兄の一人暮らしを機に、少しずつ、たくさんの人が、様々な苦しみを抱えながら生きていることに気付いていく。
近しい人の出産。大事な人の死。愛する人の病気。砂羽は、様々な経験を通して、苦しみから逃げるために死を選んだ自分が、死に損なって生きていることの意味を考え始める。
生きるのは、泥水の中でもがき続けることだ。
砂羽は、悲しみを抱えながらも、最愛の人たちと、苦しみ、悲しみを共に背負い、生きていく道を歩み始める。ずっと先も、泥水の中から抜けられないことを知りながら。