あらすじ
朝。道を歩くその男は疲れていた。尤も、世の中の大半の会社員はそうである。朝起きて身支度を整え満員電車に揺られること一時間。ようやく会社に着き……と、身を委ねていればあっという間に歳月は流れるだろう。そして死ぬだろう。
――嫌だ。
今日、彼はそう思った。そして気づいたら人の流れに逆らい、駅から遠ざかっていた。
心を病んでいるのかもしれない。彼は自分でもそう思うと同時に、今こうして駅に向かって歩いている人々こそが病んでいるのではとも考えた。
だが現実、このまま会社を休むわけにはいかない。無断欠勤なんてもってのほか。新人ではない。そう頭ごなしに叱られはせず、むしろ心配されるだろうが、そろそろ昇進も見えてきている、そういった頃合い。上司の評価は下げたくない。逃避行はもう終わり。呆れるほど短かった。